【院長コラム】対処と治療|睡眠衛生・薬・認知行動療法をやさしく解説
不眠症③
こんにちは。ようやく涼しくなってきましたね。夜の寝苦しさもほぼなくなり、夏の布団だと寒いくらいです。
今回は不眠症の対処法や治療法についてのはなしです。
不眠症の治療というと睡眠薬と思うかもしれませんが、睡眠薬を内服する前にできることがあります。
不眠症の対処には大きく分けて3つのアプローチがあり、ひとつひとつ紹介していきます。
まず大切なのは睡眠環境や生活習慣などの改善です。
睡眠衛生の改善
- 寝る前に覚醒状態を上げる嗜好品の摂取を控える
カフェインを含むコーヒー、紅茶、緑茶やニコチン(タバコ)、アルコールなどを就寝前に嗜むのを控えましょう。
- 寝床にいる時間と実際の睡眠時間のミスマッチの改善
何とか寝ようと布団に長時間いることで、かえって不眠の症状が悪化してしまいます。眠くなるまで寝床には行かないよう心がけましょう。
- 日中の活動量を増やす
適度な運動を心がけましょう。
- 睡眠サイクルを整える
起床時に日光を浴びることによって、体内時計がリセットされ昼夜の睡眠覚醒のリズムが整います。
- 就寝前にデジタル機器、スマホの使用を控える
就寝2時間前にはデジタル機器、スマホの使用を控えるようにしましょう。
- 室温に気を配る
室温は睡眠状態に影響を与えます。
この夏のような猛暑で夜間も室内が高温であれば睡眠状態は悪化します。適切にクーラーを使用しましょう。逆に冬季に室温が低すぎると睡眠状態は悪化します。WHOの住環境ガイドラインで冬の室温は18℃以上に維持することが推奨されています。
- 入浴
就寝前に少しぬるめのゆっくりつかることで寝つきに良い影響があります。
- ストレス解消
強度のストレスは不眠を招きます。自分にとってのストレス解消法を見つけましょう。
こういったことに気を付けることがまず大事です。
次いで2つめのアプローチ、薬の内服です。睡眠薬ですね。
睡眠薬の内服
現在日本では以下のような薬が不眠症に対して用いられています。
聞いたことのある名前もあるかもしれません。
表にあるベンゾジアゼピン系の睡眠薬は昔からある睡眠薬で、身体依存やふらつき、筋弛緩などの副作用があり高齢者では転倒、骨折を引き起こすことがあり注意が必要になります。それに対して新しいタイプの睡眠薬が続々と発売されています。非ベンゾジアゼピン系、オレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体作動薬とよばれる7種類の薬です。これらの薬は従来のベンゾジアゼピン系の薬剤より筋弛緩やふらつきといった副作用が弱く、現行の不眠症治療ではこれらの薬剤がメインで使われるようになってきています。
GABA-A受容体作動薬 |
非ベンゾジアゼピン系 | ゾルピデム | マイスリー |
超短時間作用型 |
ゾピクロン | アモバン | |||
エスゾピクロン | ルネスタ | |||
ベンゾジアゼピン系 |
トリアゾラム | ハルシオン | ||
エチゾラム | デパス |
短時間作用型 |
||
ブロチゾラム | レンドルミン | |||
リルマザホン | リスミー | |||
ロルメタゼパム | エバミール | |||
フルニトラゼパム | サイレース |
中間作用型 |
||
エスタゾラム | ユーロジン | |||
ニトラゼパム | ベンザリン | |||
クアゼパム | ドラール | |||
フルラゼパム | ダルメート |
長時間作用型 |
||
ハロキサゾラム | ソメリン | |||
オレキシン受容体拮抗薬 |
ダリドレキサント | クービビック |
短時間作用型 |
|
レンボレキサント | デエビゴ | |||
スポレキサント | ベルソムラ | |||
メラトニン受容体作動薬 | ラメルテオン | ロゼレム | 超短時間作用型 |
最後のもう一つのアプローチが認知行動療法です。
認知行動療法
聞きなれない名前かもしれません。認知行動療法とは極端な考えや行動を修正することによって、うつ病などの精神疾患を治療するために開発された治療法です。
不眠症に対しても今では効果が実証された治療として、欧米を中心に世界的に使われていますが、日本では医療保険適応がなく限られた医療機関でしか行われていないのが現状です。
不眠症に対する認知行動療法には刺激制御法や睡眠日誌、時間制限法等があります。
簡単に説明すると刺激制御法は寝床についても目が覚めてしまう方に向けて行われ、「寝室ではリラックスできる」という考え方を強める方法です。
- 眠くなったときだけ、寝床に就く
- 寝床で本を読んだり、テレビを見たり、食べたりするのはやめる
- 眠れなければ(例えば20分間)、寝室を出て別の部屋に行く。本当に眠くなるまで別の部屋で過ごし、それから寝室に戻るようにする
- その晩、どんなに眠れなくても、目覚まし時計をセットして、毎朝同じ時間に起きる
- 昼寝はしないようにする
こういったことに気を付け実践するようにします。
睡眠日誌、時間制限法はまず睡眠日誌をつけ、次いでこの睡眠日誌で2週間の睡眠状態を“見える化”した後、2週間の平均睡眠時間から寝床に入っている時間を調整する方法です。
少しでも長く眠るためにずっと寝床で過ごすことで、かえって浅い眠りや中途覚醒をきたしている不眠症において、寝床にいる時間を制限することで改善が期待できます。
いかがでしたでしょうか。
今回は不眠症に対する3つのアプローチを紹介しました。
睡眠薬を内服する前にもいろいろ自分でできることがありますね。
ぜひ試してみてください。
【参考文献】
塩野義製薬 「ぐっすりコンパス」
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 「こころの情報サイト」
日経メディカル2025 特別編集版 「不眠症治療、これがニューノーマル」
LaLaクリニック
安久 正哲