第16回 コラム
RSウイルス
こんにちは。
だいぶ暖かくなってきました。短い春をすっ飛ばして急激に夏に向かっている感があります。
みんなさんはRSウイルスという名前を聞いたことがありますでしょうか。
今年になって60歳以上向けのRSウイルスワクチンも発売されました。
いったいRSウイルスとはどんなウイルスなのでしょう。
RSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)は世界中にくまなく存在するウイルスです。主に呼吸器の感染症を引き起こし、生涯にわたって何度も感染と発病を繰り返し、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の児がRSウイルスに少なくとも1度は感染するとされています。
症状としては、発熱、鼻汁などの軽い風邪様の症状がほとんどですが、まれに重い肺炎等を引き起こすこともあります。
つまり風邪を引き起こす代表的なウイルスの一つです。
ただRSウイルスは高齢者や喘息、慢性閉塞性肺疾患、心疾患などの慢性の基礎疾患がある方、免疫が低下している方の場合は肺炎などの重篤な合併症を引き起こすことがあり注意が必要となります。
また長期療養施設内での集団発生が問題となる場合もあります。このあたりはインフルエンザウイルスや新型コロナウイルス等のウイルス感染症と同じですね。
本邦における年間のRSウイルス感染症による発症・入院・死亡は以下のような報告があります。
引用元:Savic M. et al.: Influenza Other Respir Viruses. 17(1), 2023,e13031
同じように呼吸器の感染症を起こす代表的なウイルスにインフルエンザウイルスがあります。
インフルエンザウイルスとRSウイルスはどのような違いがあるのでしょう。
75歳以上の高齢者でフランスの大学病院において7シーズン解析した研究があります。
結果は・・・
- RSウイルス感染患者では喘鳴や呼吸困難などの呼吸器症状が多く、インフルエンザ患者では発熱、倦怠感、筋肉痛などの全身症状が多く認められた
- RSウイルス群では、肺炎(8% vs 17.2%, P = .004)、入院(83.2% vs 70%, P = .003)、ICU入室(7.2% vs 3.0%, P = .034)の割合が高く、在院日数も長期化(中央値 [四分位範囲]、9日 [2-16] vs 5日 [0-12]; P = .002)していた
- 30日後の死亡率は両群で同等だった(6% vs 9.7%, P = .973)
まとめると、RSウイルスはインフルエンザと同等の死亡率を示すものの、肺炎、入院、ICU入室率が高く、入院期間も延長するという結果になりました。
引用元:Recto CG. et al: J Infect Dis. 2024 Nov 15;230(5):1130-1138.
また基礎疾患のある人がRSウイルにかかるとどうなるか調査した研究があります。
アメリカで基礎疾患(喘息、心臓冠動脈疾患、糖尿病、慢性閉塞性肺疾患)がある人について、基礎疾患がない人と比較して入院する可能性が上昇するかどうか調べています。
基礎疾患 | 地域 | 入院する可能性 | |
ニューヨーク | ロチェスター | ||
喘息のある人 | 2.27倍 | 2.52倍 | 高くなる |
冠動脈疾患のある人 | 3.75倍 | 6.46倍 | 高くなる |
糖尿病のある人 | 2.35倍 | 6.44倍 | 高くなる |
COPDのある人 | 3.51倍 | 13.41倍 | 高くなる |
うっ血性心不全のある人 | 5.40~5.86倍 | 3.99~7.63倍 | 高くなる |
基礎疾患のない人と比較したRSウイルス感染症による入院率比(米国 60歳または60歳以上)
引用元:Branche AR. et al.: Clin Infect Dis. 74(6), 1004‐1011, 2022
結果は、基礎疾患がある人がRSウイルスに感染すると基礎疾患がない人に比べて入院してしまう可能性が上がることが分かります。
このようにRSウイルスは高齢者や基礎疾患のある方にとっては注意すべき感染症といえます。
次にRSウイルスの診断ですが、乳幼児・新生児用の検査キットは成人でのRSウイルスの検出は困難で、また症状も一般的な風邪の症状で特異的なものはないため診断は難しいといえます1)。
引用元:1)国立感染症研究所: 病原微生物検出情報 39(12): 212, 2018
最後にRSウイルス感染症の治療はどのように行うのでしょう。
成人においてRSウイルス感染症に対する抗ウイルス薬というような特定の治療法は現時点でありません。抗ウイルス薬というのはインフルエンザウイルスに対するタミフルやゾフルーザ、新型コロナウイルスに対するラゲブリオやゾコーバ、ヘルペスウイルスに対するバルトレックスのようなウイルスを直接退治する薬のことです。
RSウイルスにおいてはそのような薬は現在存在しないため、症状を緩和する対症療法が中心になります。一般的に風邪をひいて病院でよく処方される痰切などの薬たちを内服するかんじになります。
このような特徴を持つRSウイルスですが、予防接種が存在します。
次回はその予防接種についてお話ししたいと思います。
【参考文献】
グラクソ・スミスクライン株式会社 RSウイルス.jp
日本プライマリ・ケア連合学会 感染症委員会 ワクチンチーム「こどもとおとなのワクチンサイト」